ステンレス鋼に及ぼす添加元素の影響について

ステンレス丸棒

身の回りにあふれているステンレスと呼ばれる素材も数多くの種類があり、添加する元素によって様々な効果や影響が現れます。

SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス、SUS430に代表されるフェライト系ステンレス、SUS420J2に代表されるマルテンサイト系ステンレス、SUS630に代表される析出硬化系ステンレス、オーステナイト相とフェライト相からなる二相系ステンレス、成分の配分によって様々な特性が生まれ、用途によって使い分けられています。

今回はステンレス鋼に添加する元素によって、どのような影響がでるのか解説していきます。

元素名元素記号ステンレス鋼に及ぼす添加元素の影響
炭素C強力なオーステナイト化元素。オーステナイト結晶粒界にCr炭化物を析出し粒界腐食を起こす。様々な元素と化合物を作り硬さ、強度を増す。
ケイ素Siフェライト化元素。耐酸化性を増す。多量に加えると靭性を低下させる。脱酸材として使用される。
マンガンMnS、Seなどと化合物を作り被削性を増し、赤熱ぜい性を防止する。オーステナイト化元素でNiの約半量の能力がある。Nと親和性があり、ステンレス鋼のN吸収力を増す。
P熱間加工性を害し、機械的性質を劣化させる。オーステナイト系ステンレス鋼に適量を加えると熱間強度を増す。
硫黄S熱間加工性を害す。Mn、Te、Moなどと化合物を作り被削性を増す。
Cuオーステナイト化元素。硫化イオンに対して耐食性を改善する。析出硬化を起こし、強度を増す。熱間加工性を害する。
ニッケルNiオーステナイト化元素。耐食性を増す。オーステナイト系ステンレス鋼の基本元素。
クロムCrフェライト化元素。12%以上添加すると耐食性、耐酸化性を著しく増す。
熱間強度を増す。ステンレス鋼の基本元素である。
モリブデンMo複炭化物を作り、焼き戻し抵抗性を増す。熱間強度、耐クリープ性を増す。硫化イオンに対し耐食性を改善する。
バナジウムV焼き戻し抵抗性を増し、二次硬化して靭性を増す。炭化物を作り、耐クリープ性を増す。強力なフェライト化元素。
タングステンW強力な炭化物を作り、焼き戻し抵抗を増し、熱間硬さ、強度を増す。
コバルトCo著しく耐クリープ性強度を増す。
ヒ素As熱間加工性を害す。
Sn熱間加工性を害す。
ホウ素B粒界に析出し熱間強度を増す。微量添加で過時効を抑制し、耐クリープ性を増す。OとNとの親和性が強く安定した添加が困難である。結晶の微細化、熱間加工性を上げる。
チタンTi強力なフェライト化元素で安定した炭化物を作りオーステナイト系ステンレス鋼の粒界腐食を防止する。炭化物金属間で化合物を作り耐クリープ性強度を増す。析出硬化して強度を増す。結晶粒を微細化する。O、Nと化合しやすく清浄度を害しやすい。
セレンSe被削性を増す。
ジルコニウムZrフェライト化元素。Sと化合物を作り被削性を増す。種々の化合物を作り熱間強度を増す。結晶粒を微細化する。脱硫効果がある。赤熱脆性防止。
ニオブNb強力なフェライト化元素。炭化物を作りオーステナイト系ステンレス鋼の粒界腐食を防止する。耐クリープ性、熱間強度を増す。結晶粒を微細化する。靭性改善を改善する。
テルルTe被削性を増す。熱間加工性を害する。
Pb被削性を増す。熱間加工性を害する。
アルミニウムAl強力なフェライト化元素。Niなどと金属間化合物を作り、析出硬化し強度を増す。13Crステンレス鋼に添加しフェライトを増加させ、溶接割れを防止する。耐酸化性を増す。脱酸剤として使用される。
酸素O酸化物を作り加工性を害する。強度、靭性を害する。
窒素N強力なオーステナイト化元素。オーステナイト鋼の耐力を向上させる。高温強度を増す。低温の靭性を害する。
水素H高Niステンレス鋼の溶鋼中に多量に溶け込み、凝固時に析出しピンホールを形成しやすい。熱間加工時に割れの要因となる。

以上のようにステンレス鋼には様々な元素が添加されています。ミルシートに記載されている元素記号の効果や役割を知ることで、その材料の特性を知ることができます。

各材料の説明はこちらをご参照下さい。

SUS304とSUS303の違いについて

SUS303センタレス丸棒

ステンレス鋼とは鉄(Fe)にニッケル(Ni)やクロム(Cr)を添加し耐食性を向上させた合金鋼です。

その中で最も一般的で、幅広く使用されているのがオーステナイト系ステンレスです。

オーステナイト系ステンレスは耐食性を向上させるためにクロム(Cr)を、オーステナイト組織を安定するようニッケル(Ni)を含む合金鋼です。

今日はオーステナイト系ステンレスの代表鋼種であるSUS304と、SUS303について解説いたします。

SUS304とSUS303の成分表

鋼種CSiMnPSNiCrMoFe
SUS303≦0.15≦1.00≦2.00≦0.20≦0.158.0~10.017.0~19.0≦0.60残部
SUS304≦0.08≦1.00≦2.00≦0.045≦0.038.0~10.518.0~20.0残部
SUS303とSUS304の成分表

上記の通りSUS303はSUS304と比べ硫黄(S)とリン(P)の含有量が多く、これにより切削性を向上させています。 ただし、硫黄(S)とリン(P)を添加することにより熱間加工性を害し、溶接が必要な場合は支障をきたしてしまいます。また、耐食性は硫黄(S)を含まないSUS304の方が優れています。

SUS304とSUS303の耐食性

SUS304とSUS303を比較した場合、SUS303の方が耐食性は劣ります。特に湿気の多い場所や水分が触れる場合はSUS304を使用しなくてはいけません。医療用途、食品用途にSUS303が使用できないのはそのためです。

SUS304とSUS303の切削性

SUS303には硫黄(S)とリン(P)が含まれているため切削性はSUS303の方が良好です。旋盤加工時にSUS304は連なった切粉となりますがSUS303はパラパラと細かく途切れた切粉になります。また、SUS304では刃物がもたない場合でもSUS303ならすんなりと削ることができる場合もあり、結果的に加工費を抑えることができる場合もあります。

SUS304とSUS303の磁性

オーステナイト系ステンレスであるSUS304とSUS303は共に非磁性のステンレス鋼です。ただし、冷間での加工時に加工硬化により磁性を持つこともあるので注意が必要です。

SUS304とSUS303の溶接性

SUS303に含まれる硫黄(S)とリン(P)は熱間加工性を害する作用があり、溶接には向いていません。よって、溶接が必要な場合はSUS304を使用する必要があります。

SUS304とSUS303の材料費

SUS304よりSUS303の方が一般的に若干ではありますが高くなる傾向があります。当然、購入ロットや購入時の規定によっても違いますので一概には言えませんが。

SUS304とSUS303の流通性

丸棒・六角棒・四角棒

丸棒(センタレス、引抜、ピーリング)・六角棒・四角棒は共に多く流通しており、入手は容易です。ただし、SUS304の方が全体的に細かいピッチで寸法が設定されていることも多いです。

平角棒

平角棒はSUS303も流通していますが、SUS304の方が寸法ラインナップが豊富です。表面も#400、HL等豊富なラインナップが流通しています。

薄板(冷間圧延)

薄板(冷間圧延)は、SUS304のみ流通しています。それは、SUS303が切削を想定した材質であること、薄板の主な用途が一般板金用であることが主な理由です。

厚板(熱間圧延)

厚板(熱間圧延)はSUS304、SUS303共に流通しており、入手は容易です。ただし、SUS304の方がより多く使用されることから入手はより容易です。

パイプ

パイプは基本的にはSUS304が流通しており、色々な形状(丸パイプ、角パイプ、平角パイプ等)、表面(#400、HL等)が流通しています。SUS303は紐付き品等で持っている問屋さんがあるかもしれませんが、基本的には流通していません。

アングル・チャンネル

アングル・チャンネル等の型鋼もSUS303は流通していません。構造用として使用されることを想定しており、切削性を求められる形状ではないことが挙げられます。

SUS304・SUS303の規格寸法

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